2025年3月7日

上海Spring Drift Day3

三日目のスタートは豫園商城の回廊。開店前の静けさの中、真っ白なコック帽の青年が柱の陰でスマホを覗き込み、夜勤明けの煙草にふっと息を吐いていた。明滅する看板の光が瓦屋根を照らし、前日の雨で磨かれた床がほのかに反射する。
回廊で一息つく若いコック
通りを抜けると、霧を噴く池に黄色い蓮の灯籠が浮かび上がる小さな祠。屋台の赤い暖簾が湿った空気を染め、まだ寝ぼけた街全体が柔らかい蒸気に包まれていた。水面から立つ湯気に触れると肌が一瞬で冷えて、熱い豆乳を求める行列へ自然と足が向く。
霧に光る蓮灯籠と祠の屋台
昼には虹口の住宅街で壁画めぐり。ジャングルが描かれた壁に「海友酒店」の文字が跳ねていて、春の新芽と絵の中の葉脈が重なって見える。塗料の匂いに誘われて近づくと、裏手から鳥のさえずりとエアコンの低い唸りが同時に聞こえ、都会の密度が絵具に閉じ込められているようだった。
海友酒店の壁画サイン
石畳の路地では黄色いコンテナを積んだ配送員が滑るように走り抜け、頭上には複雑に絡まる電線。すぐ脇の小窓からはベーグル屋の甘い香りが漂い、窓辺には「BAGELS, SCHMEARS, AND A NICE PIECE OF FISH」というレシピ本がさりげなく置かれていた。散歩の途中に海外の週末が紛れ込んだようで、ページを捲る指先まで小麦粉が付いた気がする。
路地を走る配送員と絡む電線
窓辺に置かれたベーグルのレシピ本
最終夜は移動の前の小休止。虹橋空港のベンチに寝そべる人影を眺めながら、自分も荷物を枕にして天窓越しの薄曇りを吸い込む。搭乗口が呼ばれるころ、機体が滑走路を回り込み、窓の向こうに「SHANGHAI」の文字が後ろへ流れていった。旅の熱が機内の冷気に溶け、ノートに残したインクだけが湿度を引き継ぐ。
虹橋空港のロビーで休む乗客
離陸前の機窓から見た上海のターミナル